「謝罪がない!それだけで慰謝料は増えないのか?」──制度と感情、その交差点で

「謝罪がない!それだけで慰謝料は増えないのか?」──制度と感情、その交差点で

交通事故や不法行為の被害者から、よくこんな声を耳にします。
「相手から一言の謝罪もなかった。慰謝料をもっと取ってやりたい!」

その怒りと悔しさ、もっともです。
しかし、結論から言えば──「謝罪がない」ことだけで慰謝料が増額されるケースは、実務上かなり限られています。


なぜ謝罪の有無が金額に反映されないのか?

慰謝料とは、被害者が受けた精神的苦痛に対する賠償です。
ただし、損害賠償制度は客観的な基準に基づいて金額を決めることが原則です。

つまり、感情や態度といった主観的要素を直接金額に反映させるのは意外と難しいのです。

たとえば:

  • 後遺障害の程度
  • 治療期間や通院頻度
  • 事故の態様(故意・重過失)

などの“数値化・比較可能な要素”が重視されます。


実際に「態度」で増額された判例もあるが…

もちろん、加害者が著しく不誠実な対応を繰り返した結果、慰謝料が増額された判例も存在します。

しかし、これはあくまで特別な例外であり、単に「謝らなかった」というだけで金額が跳ね上がることは通常ありません。


保険制度があるからこそ──このジレンマ

日本の自動車保険制度は非常に充実しています。
加害者が誠実でなくても、保険会社がしっかり賠償してくれる──これは大きな安心です。

しかし、その一方で……

  • 加害者が一言も謝らず
  • すべて保険会社に“丸投げ”して終わり

というケースも実際にあります。

制度が充実しているからこそ、人としての誠意が見えにくくなる── これが、現代の“静かなジレンマ”なのです。


それでも…制度には意味がある

私は、この制度には価値があると思っています。
たとえ相手が誠実でなくても、被害者が確実に賠償を受けられる──これは、とても重要な安心です。

すべての被害者が、誠実な加害者に出会えるわけではありません。
「人を選ばず、補償される」──その仕組みがあることが、社会の支えなのです。


まとめ

謝罪がない。誠意が感じられない。
それでも慰謝料は制度に従って決まる──それが現実です。

でも、あなたの怒りは間違っていません。 「お金とは別の部分」でどう受け止め、どう決着をつけるか。 それを一緒に考えるのが、私たち弁護士の仕事だと私は思っています。


📍おさち法律事務所|鳥川秀司 弁護士
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