諏訪地域で31年ぶりの無罪判決——ある傷害事件の弁護活動をご報告いたします
令和7年3月、長野地方裁判所諏訪支部で、当事務所が担当した傷害被告事件について、無罪判決が言い渡されました。
刑事事件で無罪判決が出ることは、めったにありません。
日本の刑事裁判では、起訴されると有罪になる確率は99%を超えると言われています。諏訪地域でも、無罪判決は実に31年ぶりとのことです。
依頼者からのご了解をいただきましたので、この事件を通じて感じたこと、そして弁護人としてどんなふうに事件と向き合ったのかを、お伝えしたいと思います。
「やっていない」と訴える依頼者と出会って
ご相談に来られた依頼者は、終始一貫して「自分はやっていない」と訴えていました。
しかし、目撃者はいません。あったのは、相手方の供述と、医師が作成した診断書だけでした。
刑事裁判では、検察官が「被告人がやった」ことを証明しなければなりません。
裁判所が「合理的な疑い」を抱けば、被告人は無罪となります。
弁護人として目指すべきは、「やっていない」ことを積極的に証明するのではなく、「やったとは言い切れない」と裁判所に判断してもらうことです。
そのためには、相手方の供述を慎重に検討し、本当に信用できるのかを問い直していく必要がありました。
弁護活動の3つの柱
① 現場を歩く──物理的な「ありえなさ」を見つける
依頼者の話を聞く中で、相手方が証言する事件の経過に、物理的に難しい点があるのではないかと気づきました。
そこで、何度も現場に足を運び、距離を測り、写真を撮り、構造を確かめました。
動画やAIなども駆使して、相手方の証言が現場の状況と本当に整合するのかを徹底的に検証しました。
その結果、相手方の証言通りに事件が起きたとすれば、現場に物理的な変形や損傷が残るはずなのに、そうした痕跡が一切残っていないことが分かりました。
裁判所も、「相手方の証言通りの行動が、損傷を残さずに行われたのかは、やはり疑問が残る」という趣旨の判断を示しました。
諦めずに何度も現場に足を運ぶ──地道な作業ですが、これこそが弁護活動の基本だと、改めて感じました。
② 診断書を「鵜呑みにしない」
検察側の重要な証拠の一つに、医師の診断書がありました。
一般に、医師の診断書は信用性が高いと評価されます。しかし、診察の実態はどうだったのでしょうか。
調べてみると、その診察はわずか5分程度で、内容の多くは患者本人の訴えに基づくものでした。医師が独自に医学的検討を加えて結論を導いた、というものではなかったのです。
さらに、当該医師の専門分野や経歴を国会図書館まで足を運んで調査し、専門知識のみならず、その医師の人となりまで含めて把握したうえで反対尋問に臨みました。
その結果、裁判所は「診断書の所見は、暴行があったとすれば整合する、というにとどまる」と評価しました。
診断書の存在だけでは、「暴行があった」と推認することはできない、と判断されたのです。
専門家の意見だからといって鵜呑みにしない。 これも、弁護活動で大切な姿勢だと痛感しました。
③ 「嘘をつく動機がない」という主張を覆す
検察側はこう主張しました。
「相手方には嘘をつく動機がない。だから、その証言は信用できる」
これは、被害者供述の信用性を支える典型的な論法です。
しかし、本当にそうでしょうか。
事件の現場では、依頼者と相手方との間で、何らかのもみ合いがあったことは認められます。
裁判所はこう判断しました。
「もみ合いがあったとすれば、それ自体が(事実と違うことを言う)一つの動機になり得る」
「被害者だから嘘はつかない」という思い込みを排除した、画期的な判断だと考えています。
人は、トラブルがあれば話を盛ることもありますし、パニックの中で記憶が変容することもあります。被害を訴える人だからといって、その供述を無条件に信用してよいわけではない──実務でも重要な指針となる考え方ではないでしょうか。
この事件を通じて感じたこと
無罪判決を得たことで、依頼者の名誉は守られました。
しかし、ここに至るまでの道のりは、決して平坦ではありませんでした。
刑事事件は、ご本人にとっても、ご家族にとっても、本当に苦しい時間です。
「やっていない」と訴えても、なかなか信じてもらえない。日常は大きく変わり、将来への不安に押しつぶされそうになる。
そんなときに弁護人ができることは、ご本人の言葉を信じ、徹底的に事実を調べ、法廷で粘り強く主張することです。
刑事事件でお困りの方へ
身に覚えのない疑いをかけられている方。
ご家族が逮捕・勾留されてしまった方。
警察から呼び出しを受けた方。
刑事事件は、初動が極めて重要です。早い段階で弁護人をつけることで、防げる不利益も少なくありません。
当事務所では、刑事事件を主たる取扱分野としておりませんが、ご縁のあった依頼者の弁護活動には全力で取り組んでまいります。
一人で悩まず、まずはご相談ください。
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